ラインケアとは?メンタルヘルス不調の問題点や対策などを徹底解説

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ラインケアとは?メンタルヘルス不調の問題点や対策などを徹底解説

ラインケアとは?メンタルヘルス不調の問題点や対策などを徹底解説

現在、IT化に伴う職場環境の変容やコロナ禍の影響による働き方の転換など、目まぐるしく変化する社会環境の中で“メンタルヘルスの不調”を訴える従業員は増加しています。
健康経営を目指して企業の収益性を高めるためにも、メンタルヘルス対策が欠かせません。

経済産業省が主催している健康経営優良法人2022の健康経営度調査では、以下の2つの取り組みがメンタルヘルス対策として取り上げられています。

① 50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施(認定要件の健診・検診等の活用・推進)
② メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み(具体的な健康保持・増進施策)
※参考: 経済産業省「健康経営優良法人の申請について」

その中でも、組織の管理者が部下のメンタルケアを行う『ラインケア』が重要視されています。企業の経営者に求められるのは、管理者がラインケアを円滑に実施できるような、組織的な仕組みづくりです。

ただ、「ラインケアの投資対効果が不明確」「管理職にどこまで研修を受けてもらうべきなのか」と、ラインケアで得られるメリットが具体的でなく、導入への判断に困っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本記事では、ラインケアの必要性や具体的な対策について解説していきます。

1. ラインケアとは何か? 2つの大きな役割

職場のメンタルヘルスは、以下の4つの側面から従業員のケアを考える必要があります。

  • 従業員個人が行うセルフケア
  • 部長や課長など管理監督者が行うラインケア
  • 産業保健スタッフが行う事業場内資源によるケア
  • 外部機関への委託、紹介をする事業場外資源によるケア

ラインケアにおいては、管理監督者による役割が多岐にわたっており、職場のメンタルヘルス対策の中でも重要な位置づけになっています。管理監督者による役割について、メンタルヘルスに不調がある部下の職場復帰への支援を除いた、大きなものを2つ挙げてみましょう。

1-1. 現場の責任者が行うメンタルヘルスケア

ラインケアとは管理監督者が行うメンタルヘルスケアの形態です。管理監督者とは、部長や課長などの組織の管理者をいいます。現場で従業員に接する直属の上司が行う“直接的なメンタルケア”といえるでしょう。

1-2. 安全配慮義務に基づくケア

労働契約法や労働安全衛生法では、企業は従業員に対して安全配慮義務を負うことが定められています。安全配慮義務とは、従業員が安全に働けるよう様々な配慮を行う義務のことです。安全配慮義務を怠って従業員に損害が生じた場合、安全配慮義務違反となってしまいます。

※参考:e-Govポータル「労働契約法」
※参考:e-Govポータル「労働安全衛生法」

メンタルヘルス対策も安全配慮義務に基づくケアの一つといえるでしょう。組織の管理者が職場環境の改善を行うことが、安全配慮義務を果たすことにつながるのです。

2. ラインケアで組織の管理者に求められる部下への対応

ラインケアで組織の管理者に求められる部下への対応

それでは、管理者はメンタルヘルス不調にどのように気づき、対処することがよいのでしょうか。部下への対応としては、「気づく」「聴く」「つなぐ」「見守る」という4つのプロセスが重要になります。さらに、組織的なものとして職場環境を「変える」という対応も求められます。

2-1. 「気づく」……メンタルヘルス不調のサインを見逃さない

ラインケアとして対応するためには不調に気づく必要があります。部下に次のような変化が表れたら、メンタルヘルスが悪化しているかもしれません。

  • 遅刻、早退が増える
  • 同じ業務量なのに残業や休日出勤が増える
  • 業務についての報告や相談がなくなる
  • ミスが増え、集中力が低下している
  • 服装が乱れている

これらの項目に1つでも当てはまっていたら、部下の様子を特に注意して観察するよう意識してみましょう。

また、家族関係やライフイベント、本人の性格特性がストレスを強める可能性もあります。部下と日頃からコミュニケーションを取り、プライベートの事情も含めて相談しやすい環境や雰囲気を整え、総合的な状況を把握しておくことも重要です。

2-2. 「聴く」……相談に対応する

部下の相談対応も組織の管理者が行うラインケアの一つです。悩みごとを相談されたら、基本的には否定せずに受け入れて、傾聴に徹しましょう。30~40分ほどのまとまった時間を取り、プライバシーに配慮して別室で相談をじっくり聴くよう心がけます。また、「チームミーティングの実施」など相談しやすい体制づくりも必要です。

2-3. 「つなぐ」……産業保健スタッフや外部機関に紹介

部下から相談された時や普段の様子のなかで「自分では手に負えない」と感じた場合、社内に産業医や保健師などの産業保健スタッフがいれば助言を仰ぐことが必要です。部下本人の希望で外部機関へ相談したい場合や、精神疾患を発症しており医療機関への受診が必要な場合は、外部へ紹介することも必要でしょう。

いずれにしても、本人の意向が一番大切です。本人が行きたくなさそうなら、「代わりに相談してこようか?」などと提案して承諾を得るようにするとよいでしょう。

2-4. 「見守る」……休職した従業員の復職支援

休職した従業員の復帰支援も、組織の管理者が行うラインケアの1つです。復職すると「働いてもらうからには前までの業務量を」と思ってしまうかもしれません。しかし、無理はさせず、できるだけ長い目で見守るようにすることが重要です。

本人の健康状態を考慮して業務量を調整し、適正かどうかを本人にその都度確認するようにしましょう。また、通院のための時間を確保してあげることも大切です。

2-5. 「変える」……職場環境の改善

部下からの相談を聞いたら、ストレス要因の把握と改善に努めることが求められます。そのなかでも、『職場環境』は、照明・作業動線などの物理的環境・人間関係・業務量・裁量の範囲……といった多様な要素を含むものです。部下からの意見をもとに、衛生管理者などにも相談し、働きやすい環境を整えるため改善を行っていきましょう。

3. ラインケアの推進で得られる3つのメリット

ラインケアの推進で得られる3つのメリット

では、ラインケアを推進することによって、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。3つを挙げてみましょう。

3-1. 人材の減少を避け人件費の増大を抑止できる

退職により人材が減ってしまうと、現場の従業員の負担が増えてメンタルヘルスの悪化につながる可能性があります。また、新たに人材を確保する必要が生じるため、採用コストがかかり、人件費が増えてしまうこともあるでしょう。

令和2年度の労働安全衛生調査では、メンタルヘルス不調によって退職した労働者がいた事業所の割合は3.7%となっています。事業所規模が大きくなるにつれて割合は増えており、1000人以上の事業所では64.4%と非常に高い割合です。

※参照:令和2年度労働安全衛生調査(実態調査)

規模が大きい企業ほど、現場の管理者が果たす役割は重要であるといえるしょう。そのため、メンタルヘルス不調による退職者が多い大企業では、特にラインケアの推進が求められます。

3-2. リスクマネジメントにつながる

前述したとおり、ラインケアの推進は管理監督者の安全配慮義務を果たすことにつながります。安全配慮義務違反には、罰則が明記されていません。しかし、重大な損害が生じた場合、裁判となり訴えられ多額の損害賠償金の支払いを命じられる可能性があるのです。実際、パワーハラスメントにより精神疾患を発症した場合で、賠償命令が下された判例もあります。

※参考:厚生労働省【第25回】「上司のパワーハラスメントが原因で休職したものとして地位の確認と損害賠償を請求した事件」 ― 大裕事件

そのため、ラインケアは企業にとっての“リスクマネジメント”として有効であるといえるでしょう。

3-3. 生産性が向上する

ラインケアの推進においては、組織の管理者が相談しやすい体制を整えるため、部下とのコミュニケーションを増やすことが求められます。上司と部下がコミュニケーションを十分に取れていることがメンタルヘルスに影響を与えるとともに、生産性の向上にも影響しているという研究結果もあります。

※参照:独立行政法人経済産業研究所「上司が部下のメンタルヘルスと生産性に与える影響:パネルデータを用いた検証」

つまり、ラインケアを推進することで、メンタルヘルスの不調を防ぐだけでなく、“生産性の向上”も期待できるといえるでしょう。

4. ラインケアの効果的な実施に向けて、企業がやるべきこと

ラインケアを行うのは組織の管理者です。では、管理者が効果的にラインケアを実施するために、企業はどのような取り組みをすればよいのでしょうか。

4-1. 産業医との連携

組織の管理者がメンタルヘルスの不調に気づいたとしても、専門的知見から「これは不調である」といえるのかは素人には判断ができません。専門的知見から判断が下せる産業医との連携が必要になってくるでしょう。

腕のよい産業医と連携することができれば、ラインケアを効果的に実施できるはずです。しかし、精神科医を産業医として配置する企業もありますが、精神科医であるからといって必ずしも産業医として優れているわけではありません。精神科医は、精神疾患の治療を主な仕事としているため、予防的観点から対策することに精通していない可能性があるからです。

予防医学に知見があり、組織的な対応についても助言ができる産業医を探していくとよいかも知れません。

4-2. 管理者への研修とケア

ラインケアに不可欠なのが、管理者への研修の実施です。メンタルヘルス対策に関する基礎的知識、不調を捉えるためのサイン、職場環境の評価方法、プライバシーの配慮など多様な研修を行うことが必要でしょう。

また、管理者が担うラインケアでの役割は非常に多岐にわたるため、通常業務と並行して行うことは大きな負担となることもあるでしょう。管理者も一人の従業員であるため、管理者自身のセルフケアも重要です。管理者が相談できる窓口や体制づくりが必要でしょう。

4-3. 費用対効果を分析する

ラインケアの実施には、組織的な取り組みが不可欠です。組織として取り組む際には、効果検証をして費用対効果を示すことで、ラインケアの実施方法を改善していくことが必要でしょう。

具体的な方法としては、産業保健スタッフへの相談件数、休職者や離職者などの増減傾向といった指標を、ラインケア研修の前後で比較するといったことが考えられます。思ったような効果が見られない場合は、研修の内容を変更し管理者の意識を高められるようにすることで、効果的なラインケアが行えるようになるでしょう。

5. ラインケアの課題と克服策

5-1. ラインケアの課題と壁

ラインケアを実施する際には、いくつかの課題や壁が存在します。その中でも主な課題としては以下のようなものがあります。

まず、メンタルヘルスの問題に対する社会的なスティグマやタブーがあげられます。メンタルヘルスの不調に対しては、まだまだ理解や認識が不十分な場合があります。そのため、従業員が自身のメンタルヘルスの問題を打ち明けにくい状況があります。社内の風土や意識改革が重要であり、メンタルヘルスに対するオープンでサポーティブな環境づくりが不可欠になるでしょう。

それだけではなく、人的リソースや予算の不足も課題となります。ラインケアを効果的に実施するには、熟練したメンタルヘルスケアの専門家やトレーナーが必要です。しかし、組織によっては人員や予算を確保することが難しい場合もあります。

さらに、組織全体の意識や風土の変革も課題です。ラインケアを実施するためには、経営層や管理職、現場リーダーの理解と協力が不可欠です。しかし、組織の慣習や文化を変えることは容易ではないため、組織全体の文化変革やトップダウンのサポートを通じて、ラインケアの重要性を浸透させる必要があるでしょう。

5-2. ケアプロセスの改善と効果的なフォローアップ

ラインケアの効果を最大限に引き出すためには、ケアプロセスの改善と効果的なフォローアップが重要です。

まず、ケアプロセスの改善には、従業員へのアンケートやフィードバックを活用することが有効です。従業員からの意見や要望を収集し、改善点を特定することで、組織のニーズに合ったケアプロセスを構築することができます。また、ケアプロセスのスムーズな実施と品質管理を支援するために、適切なツールやシステムの導入も重要です。

さらに、効果的なフォローアップを行うことも重要です。メンタルヘルスのケアは継続的な取り組みであり、1回の対応だけでは効果が限定的です。従業員の状態やニーズを定期的にフォローアップし、必要なケアやサポートを提供することが重要です。このためには、トレーニングや教育プログラム、定期的な面談や評価の仕組みを活用して、従業員のメンタルヘルスの状態を把握し、適切なフォローアップを行う体制を整えることが必要です。

5-3. ラインケアの持続的な推進と改善活動

ラインケアを持続的に推進するためには、組織の持続的な取り組みや改善活動が重要です。

まず、経営層や管理職のリーダーシップが求められます。メンタルヘルスケアへのコミットメントと積極的な関与が、組織全体の取り組みに反映されることが重要です。また、組織内での情報共有や意識啓発活動を通じて、ラインケアの重要性を広めることも効果的です。

さらに、定期的な監査や評価を通じて、ラインケアの効果や課題を把握し、改善策を見つけることが重要です。組織全体での情報共有やベストプラクティスの共有により、より効果的なラインケアの推進が可能となります。情報収集やモニタリングによって、改善点を特定し、定期的な改善活動を行うことで、持続的なメンタルヘルスケアの実施と改善を図ることができます。

これらの課題克服策を実践し、ケアプロセスの改善と効果的なフォローアップ、持続的な改善活動を行うことで、ラインケアの効果を最大化し、組織全体のメンタルヘルスを向上させることができます。

6. 対面でのラインケアが難しい場合、「オンライン&アバター」という選択肢も

ラインケアが重要とはいえ、対面での相談に抵抗を感じる従業員の方は多くいるかと思います。そこで、私たちパーソルワークスデザインでは、“アバター”によって誰もが気軽に心理師にアクセスできる環境を提供しています。
それは「KATAruru」というサービスです。
「KATAruru」は、誰もが気軽にメンタルヘルス支援を受けられる環境を提供することを目指し、認知行動療法等を研究する東京大学の下山研究室とパーソルワークスデザインにて共同研究を行い(2021年6月)実現した、『こころの健康アバター支援サービス』です。
相談者と心理師の双方がアバターを利用し、オンライン上で心理相談を実施できます。プライバシーが保護された環境で、安心してどこからでも心理師に相談することができます。
健康経営優良法人2022の健康経営度調査における、メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組みにも該当します。
※参照:経済産業省「健康経営優良法人の申請について」
詳細につきましては下記のページや、ダウンロード資料などをご覧ください。もしなにかご不明な点があれば、お気軽にご相談くださいませ。

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