特定保健指導の実施率を上げるにはどうしたらいい? ペナルティについても徹底解説

2008年から実施されている『特定保健指導』は、メタボリックシンドロームに着目した特定健診の結果、生活習慣病のリスクがある人に向けて行われる保健指導です。膨らみ続ける医療費の適正化を図るため、生活習慣病を予防することを目的に実施されています。
しかし、保健指導の対象となっても、なかには指導を受けない人もいます。特定健診や特定保健指導の実施率が基準に満たない健康保険組合にはペナルティが課せられるため、実施率を上げようと努力している健康保険組合も多いことでしょう。
そこで本記事では、課されるペナルティの内容や、「特定保健指導の実施率を上げるための工夫」についてご紹介します。
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目次
1. 特定保健指導とは
そもそも特定保健指導とは、メタボリックシンドロームに着目した特定健診の結果、「生活習慣病」の発症リスクがあると判定された人に行われる保健指導です。特定健診は健康保険組合などの医療保険者によって行われます。40歳〜74歳の被保険者・被扶養者を対象に、特定健診・特定保健指導の実施を行うよう法律で義務化されているのです。
保健指導の対象者は、BMIと腹囲から判定される内臓脂肪蓄積量に加え、血糖、脂質、血圧、喫煙歴から選定されます。該当するリスクの数によって、「動機づけ支援」と「積極的支援」の二つの種類があり、生活習慣を改善して生活習慣病の発症を予防することを目的として、管理栄養士や保健師が指導を行います。
1-1. 特定健診・特定保健指導とは?
40歳〜74歳のすべての被保険者・扶養者を対象に実施されるのが特定健診で、『メタボ健診』といわれるものです。健診項目に腹囲の計測が新たに加わるなど、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防と改善が大きな目的になっています。受診者によっては、特定健診の結果に基づいて必要度に応じた保健指導が行われることになります。
特定健診の項目は以下の通りです。標準的な質問票(22問)とあわせて実施されます。
項目 | 備考 |
診察・身体計測 | 既往歴、自覚・他覚症状、身長、体重、BMI、腹囲 |
血圧 | – |
肝機能検査 | AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GT(γ-GTP) |
血中脂質検査 | 中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロールまたはnon-HDLコレステロール |
血糖検査 | 空腹時血糖またはHbA1Cまたは随時血糖 |
尿検査 | 尿糖、尿蛋白 |
★貧血検査 | ヘマトクリット値、血色素量、赤血球数 |
★心電図 | 12誘導心電図 |
★眼底検査 | – |
★血清クレアチニン検査 | eGFRによる腎機能評価を含む |
★…「詳細な健診項目」で医師の判断に基づき実施
※参考:厚生労働省「e-ヘルスネット『特定健康診査の検査項目』」
特定保健指導では特定健診の結果に基づいて決められた基準で支援のレベル分けを行います。レベルは、積極的支援、動機付け支援、情報提供に分けられ、それぞれのレベルに応じた支援を行っていくのです。
1-2. 特定保健指導の目的
特定保健指導は、保健指導者(医師・保健師・管理栄養士)と一緒に、改善するための行動目標を設定、実践できるようにし、対象者が自分の健康に関するセルフケアができるようになることを目的としています。
セルフケアの確立のためには、体重や歩数の測定を行うことや、保健指導者からの励ましなどのフィードバックが有効です。そのような継続支援においては、以下がポイントとなっています。
- セルフモニタリングのツールを紹介し、継続支援の方法とスケジュールを確認する
- モニタリングツールは、手書きの記録用紙やスマートフォンのアプリなど、対象者の最も継続しやすい方法を選択できることが望ましい
- IoT(Internet of Things)を活用した保健指導を積極的に取り入れ、対象者の継続意欲につながる保健指導方法を工夫すること
※参考:厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(平成30年度版)」
2. 特定保健指導の階層化(選定の基準)
特定健診の結果から特定保健指導の対象者を選定することを『階層化』といいます。では、具体的に対象者はどのように決まるのでしょうか。基準をご紹介していきましょう。
まずは内臓脂肪の蓄積量について、BMIと腹囲から判定されます。
- 腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上→「内臓脂肪型肥満A」
- 腹囲が男性85cm未満、女性90cm未満かつBMIが25以上→「内臓脂肪型肥満B」
この他に、健診結果と質問票により追加リスク数が判明します。以下の3項目の中にリスクが1つでもある場合には、喫煙歴もリスクとして追加されます。
- 血糖 空腹時血糖100g/dl以上、またはHbA1c(NGSP値)5.6%以上
- 脂質 中性脂肪150g/dl以上、またはHDLコレステロール40mg/dl未満
- 血圧 最高血圧130mmHg以上、または最低血圧85mmHg以上
以上を踏まえて、下記のどちらに該当するかを確認します。
- 「内臓脂肪型肥満A」でリスクが1つの人
- 「内臓脂肪型肥満B」でリスクが1~2つの人
→「動機づけ支援」に該当します。
- 「内臓脂肪型肥満A」でリスクが2つ以上の人
- 「内臓脂肪型肥満B」でリスクが3つ以上の人
→「積極的支援」に該当します。
3. 特定保健指導、2018年度からの変更点

2018年度(平成30年度)に特定保健指導は第3期を迎え、3ヶ月程度の「短期間実施」や「モデル実施」、「初回面談の分割実施」など、利用者が取り組みやすくかつ実施率向上を目指すために運用ルールが緩和されました。
ここからは、具体的に2018年度からの変更された点について6つほど取りあげ、解説をしていきましょう。
3-1. 変更点(1)特定健診・保健指導の実施率によるペナルティの見直し
2008年に、75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」が発足しました。この制度は約5割が公費、約4割が健康保険組合などからの支援金(後期高齢者支援金)、約1割が加入者からの保険料でまかなわれています。
2013年度から特定健診・特定保健指導の実施率が低い健康保険組合には、後期高齢者支援金の加入者1人当たりの負担額が増える=加算(ペナルティ)されることになりました。
そして2018年度からは、特定保健指導の実施率を上げるため「加算の対象範囲」や「加算率」が大幅に見直されることになりました。
3-2. 変更点(2)健診項目の追加
下記の健診項目が新たに追加されました。
- 血清クレアチニン値
糖尿病性腎症の重症化予防のため、「血清クレアチニン検査」が詳細な健診の項目に追加されました。対象者は、血圧または血糖検査が保健指導判定値以上の者のうち、医師が必要と認める場合です。 クレアチニンは98%が筋肉内に存在しており、大部分が糸球体から排出されますが、腎機能が低下すると値が上昇します。
- non-HDLコレステロール
中性脂肪が400mg/dlの場合や、食後採血のため、LDLコレステロールの代わりにnon- HDLコレステロールを用いて評価した場合でも、血中脂質検査を実施したとみなすことができるようになりました。
- 随時血糖
やむを得ず空腹時以外でHbA1cを測定しない場合は、食後3.5時間までを除いて随時血糖による血糖検査が可能になりました。
3-3. 変更点(3)質問票の項目追加
健診時に記入する質問票の項目に、口腔に関する質問として「食事をかんで食べる時の状態はどれにあてはまりますか?」が追加されました。
3-4. 変更点(4)短期間実施
特定保健指導の実績評価時期が6ヶ月後ではなく、3ヶ月後でも可能となりました。
3-5. 変更点(5)初回面談の分割実施
健診当日に結果が揃わなくても、初回面接の分割実施が可能となりました。
腹囲・体重、血圧、質問票の結果等から、対象者に健診当日より保健指導に着手します。そして、全ての健診結果を踏まえて、後日、電話等で行動計画を完成する方法でも可能になったのです。
3-6. 変更点(6)ICTを活用した健康支援の推進
通信技術を活用した初回面接(遠隔面接)の事前届出が廃止になりました。
保険者が遠隔面接をより導入しやすくなるよう、国への実施計画の届出が廃止されました。2018年度からは、ほかの保健指導の項目と同様に、保険者による特定健診・保健指導の実施状況に関する報告書のなかに「遠隔面接」を位置づけました。
つまり、事前に届出を出すことなく遠隔面接を実施できるようになったため、ICTの活用がより推進されると考えられます。
※参考:厚生労働省「ICTを活用した特定保健指導の実施の手引き」(PDF)
4. 特定保健指導の実施率によるペナルティとは?
先ほど『ペナルティ』について触れましたが、もう少し詳しく解説しましょう。
特定健診・特定保健指導の実施率向上を促す制度として、2013年度から後期高齢者支援金の加算(ペナルティ)と減算(インセンティブ)制度が導入されました。
不健康な生活習慣を続けると、中高年になって糖尿病や高血圧症、脂質異常症などを発症し、さらに動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病の合併症などを招きます。厚生労働省の統計を見ても、心筋梗塞などを起こす75歳ぐらいを境に、入院医療費が急増しています。ですから、特定健診・特定保健指導に力を入れて「メタボリックシンドローム」を減少させることで、将来の医療費増加が抑えられることが期待できるのです。
そこで、特定健診や特定保健指導の実施率を上げ、メタボリックシンドロームを減少させた健康保険組合には、後期高齢者支援金の減算(インセンティブ)という特典が与えられます。
逆に、受診者が少なくメタボリックシンドロームの人が増えてしまった健康保険組合は、将来的に医療費が増える可能性が高いことから、加算(ペナルティ)として支援金が増やされるというわけです。
4-1. ペナルティについて
全保険者の特定保健指導の実施率は2023年度までに45%を目標とされています。しかし、特定保健指導の実施率が10%未満だとペナルティが課されます。
多くの健康保険組合にとって、高齢者向け医療の費用負担はすでに重いものであり、後期高齢者支援金が加算されることになれば保険財政は一層厳しいものになります。そういった財政的な面からも、加入者の特定健診・特定保健指導の実施率向上に向けた取り組みが必要になってくるわけです。
4-2. 後期高齢者支援金とは
加算されたり減算されたりする後期高齢者支援金ですが、具体的には健康保険制度の一つである後期高齢者医療制度に対する支援金を指しています。
※参考:厚生労働省「後期高齢者支援金の加算・減算制度」(PDF)
現在75歳以上の人は、都道府県単位の広域連合で運営される後期高齢者医療制度という健康保険制度に加入しています。
この後期高齢者医療制度を支える財源は、国費が5割、加入者本人の負担が1割、そして残り4割を現役世代が負担することになっており、これが後期高齢者支援金です。そしてその負担は、現役世代の人々が毎月支払う健康保険料の中に含まれているのです。
特定健診や特定保健指導の実施率が基準を満たしていない健康保険組合に後期高齢者支援金が加算されるということは、私たちが納めている保険料から多く支払われることになり、負担が増えることになるわけです。
5. 特定保健指導の実施率を上げるにはどうしたらいい?

では、ペナルティを避けて、特定保健指導の実施率を上げるためにはどうしたらいいのでしょうか。従業員に特定保健指導を受けることのメリットを周知することはもちろんのこと、特定保健指導を受けやすい環境を整えることも重要です。
具体的に2つほど取りあげて解説してみましょう。
5-1. 「コラボヘルス」で受けやすい環境を作る
特定健診と特定保健指導の取り組みを推進するために欠かせないのが、企業と健康保険組合などの保険者が足並みを揃える「コラボヘルス」です。コラボヘルスとは、保険者と企業が明確な役割分担のもと積極的に連携し、従業員の健康づくりを効果的、効率的に進めることをいいます。
特定保健指導の実施は保険者に義務付けられているものです。しかし、特定保健指導のメリットを対象者に伝え、参加を促したとしても、企業側の協力なしには思うように進まないことがあります。指導時間の確保や企業の担当者の理解などが、参加率に大きく関わってくるからです。
健康課題や施策の共有をし、特定保健指導の位置づけをしっかりと確認することで、足並みを揃えることができるはずです。就業時間内に指導を受けられるように配慮してもらうなど、指導を受けやすい環境を整えてもらうことも効果的だといえます。
5-2. ICT面談やアプリの導入を実施する
忙しい毎日の中で、特定保健指導を受けたり健康管理に時間を取ったりすることが難しいという理由で参加を決めかねている従業員もいることでしょう。しかし、今は便利なサービスが数多くあります。
特定保健指導の初回面談は対面で行うことが基本でしたが、現在は条件を満たせばICTによる遠隔面談で行うことができるようになりました。面談の予約、実施への手間が少なく、また時間もある程度の融通が利くため非常に便利です。面談室へ出向かなくても、自身のパソコンの前で面談を受けられる手軽さもあり、参加のハードルを大きく下げることにつながっています。
手軽に行えるのは初回面談だけではありません。面談後の体調管理に役立つ体重や血圧などの数値を管理するアプリも数多くあります。
ダイアリーなどに記入していくのは少し手間ではありますが、アプリなら携帯電話からアクセスできるので使いやすいという人も多くいます。自動でグラフを作成してくれる機能がついているものなどもあり、時間がない人でも手軽に自分の健康管理に取り組むことができるでしょう。
このように、特定保健指導を進めるためには環境を整えていくことが重要です。健康経営に関するサービスを利用することによって、特定保健指導の推進が図りやすい環境を作っている企業も増えつつあるのです。
6. 特定保健指導サービスならパーソルワークスデザインへ
特定保健指導の実施率を上げるなら、わたしたちパーソルワークスデザインへお任せ下さい。パーソルワークスデザインの「特定保健指導サービス」なら、選べる3つのプログラムをご用意しています。
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