安全配慮義務とは?範囲、違反時の罰則・対策・基準について徹底解説

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安全配慮義務とは?範囲、違反時の罰則・対策・基準について徹底解説

安全配慮義務とは?範囲、違反時の罰則・対策・基準について徹底解説

企業が従業員に対して果たさなくてはならない義務のひとつに、「安全配慮義務」があります。
安全配慮義務は法律で定められていますが、具体的な対策については企業がそれぞれ考えて実施しなくてはなりません。
適切な対策をするにはまず、「安全配慮義務」がどのようなものかを知る必要があるでしょう。
本記事では、安全配慮義務を守るために役立つ知識をまとめました。安全配慮義務に関する基本的なことを知りたい方にはもちろん、より具体的な対策のヒントが欲しい方にも役立つ内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください。

1. 安全配慮義務とは

安全配慮義務とは

1-1. 安全配慮義務とは

「安全配慮義務」とは、企業や組織が従業員の健康と安全に配慮する義務のことです。
「企業は従業員が常に安全で働きやすい環境で仕事できるよう配慮しなくてはならない」ということは、労働契約法の第5条に定められているのです。
また、企業や組織が安全配慮義務を負うべき従業員の範囲についても、法律で細かく定められています。罰則はありませんが、違反した場合には損害賠償請求に応じなくてはならない可能性もあります。企業の健全な運営において必要な知識といえますので、関係する担当者は必ず覚えておくようにしましょう。

1-2. 安全配慮義務違反とは

労働者の健康と安全に対して、雇用主や企業が責任を果たさない行為や不作為のことをいいます。
労働者の健康や安全を保護するために、雇用主は必要な対策を講じる責任があります。この義務を行っているとみなされた場合は「安全配慮義務違反」となります。安全配慮義務違反によって従業員に労働災害が発生した際には、損害賠償が発生する場合もあり、賠償金を支払うだけではなく、従業員の離反や企業ブランドの低下などのリスクもあり、適切な対策や監督が必要になるでしょう。

2. 安全配慮義務の範囲

安全に配慮する義務がある従業員の範囲は、法により定められています。
ここでは、配慮すべき範囲の従業員について解説していきます。

2-1. 直接労働契約を結んでいない従業員も義務の範囲

安全配慮義務の対象には、次に示す通り企業や組織に所属する従業員はもちろん、直接労働契約を結んでいない従業員も含まれます。

【安全配慮義務の対象となる従業員】

  • 自社で働く下請け企業の従業員
  • 派遣社員

同じ環境で仕事をしている従業員であれば、誰であっても企業や組織が安全配慮義務を負うべき対象とみなされます。
下請け企業の社員や派遣社員の安全に対する配慮も怠ってはいけません。『自社で業務を行う従業員はすべて、安全配慮義務の対象になる』と考えておきましょう。

2-2. 海外勤務者も安全配慮義務の対象

海外で業務を行う従業員も安全配慮義務の対象です。出国前・帰国後のタイミングで、心身の安全確保とそのためのサポートを行いましょう。義務の内容としては、以下の通りです。

【海外勤務者に対して果たすべき義務の内容】

  • 赴任先の治安や危険性への配慮
  • 赴任前の予防接種
  • 出国・帰国後のメンタルサポート

自社から遠く離れることになる従業員への義務は、国内で働く従業員へのものとは異なる点もありますので注意が必要です。

3. 安全配慮義務を守るための対策

安全配慮義務を守るための対策

安全配慮義務を果たすための具体的な対策については、特に法律で定められているわけではありません。
企業や組織は、従業員が安全に働けるような環境整備や、心身の健康を守るための対策を独自に行っていくのが一般的です。
そのため、対策の細かい内容は企業や組織によって違いがありますが、軸となるのは以下の2点といえるでしょう。

【安全配慮義務を満たすための対策】

  • 労働環境対策
  • 健康管理対策

ここでは、これら2つの対策について具体的な例を紹介していきます。

3-1. 労働環境対策の例

『労働環境対策』は、業務を行う従業員が安全に働けるようにするための対策です。
具体的には、以下のような対策を行っていきます。

【労働環境対策の例】

  • 労働時間の管理
  • 安全装置の設置
  • ハラスメント対策と教育
  • 社内のコミュニケーション環境整備

残業の申請や上司の承認なしの残業を禁止するなど、労働時間の管理の徹底を行っている企業や組織は多くあると思いますが、これらも労働環境対策のひとつです。労働時間については労働基準法で定められていますが、その労働時間を守らせることは安全配慮義務の一環となるのです。

一般的には、6カ月を平均して45時間を超える時間外労働が行われた場合、健康障害と業務との関連性は強まっていきます。時間外労働が長くなるにつれて、その因果関係はより強まっていきます。厚生労働省では、時間外・休日労働協定の内容を労働者に周知し、週労働時間が60時間以上の労働をなくすよう促しています。

※参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

さらに、具体的な指針として『過労死ライン』がありますが、以下のように定められています。

  • 2〜6ヶ月の時間外労働の月平均が80時間超
  • 1ヶ月の時間外労働が100時間超

この条件を満たしてしまうと過労死が起きてしまう可能性がありますので、大変危険です。企業や組織は従業員を過労死から守るため、従業員の労働時間が過労死ラインを超えないよう管理しなくてはなりません。

このほか、2019年の「労働基準法」の改正により年次有給休暇の年5日の確実な取得や「働き方改革関連法」により改正された「労働時間等設定改善法」により勤務時間インターバル制度(終業時刻から翌日の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を設ける制度)が、事業者の努力義務となりました。
業務中に使用する道具の整備や、作業のための安全確保も、労働環境対策における要素です。事故が発生しやすい危険な作業においては、安全装置の設置や事故の予防対策を必ず行わなければなりません。
従業員が自分の身を守るための知識をしっかりと得られるよう、定期的な講習会などを開くのも、労働環境対策として重要な働きかけといえるでしょう。

また、守るべきなのは従業員の「体」の安全面だけではありません。「心」の安全を守ることも含まれますので、2020年に施行された職場におけるハラスメント防止対策コミュニケーション環境の整備についても、企業や組織が果たすべき義務といえます。

※参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために

3-2. 健康管理対策の例

安全配慮義務を満たすための対策としてもう一つ、『健康管理対策』については、従業員の心身を守るために行われる対策です。具体的には以下のような対策が求められ、実施されています。

【健康管理対策の例】

  • 産業保健&安全衛生管理職の導入
  • 健康診断
  • ストレスチェック制度(メンタルヘルス対策)

健康管理対策の代表的な対策として、保健師や産業医など従業員の健康管理や健康相談を行う専門家の配置が挙げられます。健康に不安のある従業員や、体調不良が疑われる従業員がいる場合、保健師や産業医への相談を促すのも企業や組織側の義務といえます。

また、一般的な対策ではありますが健康診断も健康管理対策のひとつです。定期的に健康診断を行うことで従業員の身体に起きている問題にいち早く気が付き、対処することができます。健康診断は法律的にも実施すべき時期が決まっていますので、注意が必要です。
健康診断については、以下のコラムで詳しく解説しておりますので、ぜひご確認くださいませ。

健康診断は企業の義務!対象者・種類・項目・費用を押さえよう
健康診断 会社の負担はどこまで?対象範囲や費用を知ろう

さらに、健康管理対策では『心の健康』にも配慮しなくてはなりません。ストレスチェックの実施カウンセラーの設置メンタルヘルスに関する教育や情報提供も、メンタルヘルス対策の一環です。最近では、従業員の健康管理や健康増進に対して、積極的に支援・投資をする「健康経営」に取り組む企業が多くなっています。求職者が企業を選定する基準にもなりますので、ぜひ積極的に行っていきましょう。

4. 安全配慮義務に違反した場合

ここまで具体的な対策の内容をお伝えしてきましたが、では『安全配慮義務』について企業や組織が違反した場合には、どのような罰則が科されてしまうのでしょうか。また、従業員側に過失がある場合は、どうなるのでしょうか。
続いては、安全配慮義務に違反した場合について解説していきます。

4-1. 罰則が科される可能性がある

もし企業や組織が安全配慮義務違反をした場合には、以下の3つの民法に基づいて従業員から損害賠償を請求されてしまう可能性があります。

【安全配慮義務違反により該当する民法】

  • 債務不履行
  • 不法行為責任
  • 使用者責任

損害賠償請求が正当であると認められると、当然ながら賠償金を支払わなくてはなりません。また、そういった事実が世の中に知られることにより、企業や組織へのブランドイメージ低下も考えられるでしょう。安全配慮義務の違反は企業や組織にとって大きなダメージになるものですから、避けなければなりません。

4-2. 従業員側に過失がある場合は損害と過失が相殺されることも

一方、安全配慮義務違反のなかには、従業員側に過失や要因があるケースも存在します。
具体的には、以下のようなものです。

【従業員側に過失や要因があった例】

  • 従業員が労災事故などを利用して利益を得た
  • 健康診断で精密検査や治療の指示が出たのに従わなかった
  • 企業や組織が安全に関して指示や規則を設けたのに、労働者側が守らなかった

このような場合、両者に過失があったとして賠償金額が減額される場合もあるようです。このことから、安全配慮義務は一方的に企業側だけが責任を問われるのではなく、その状況などから公平に判断されるものといえるでしょう。

5. 安全配慮義務違反の判断基準

それでは、安全配慮義務違反の判断基準はどうなっているのでしょうか。
具体的には以下の3つの観点から判断されるようです。

【安全配慮義務違反の判断基準】

  • しかるべき義務を果たしているか
  • 従業員の傷病に安全配慮義務違反が関係しているか
  • 予見可能性があったかどうか

これらの3点の内容について解説していきましょう。

5-1. しかるべき義務を果たしているか

安全配慮義務における「しかるべき義務」というのは、「企業や組織が労働安全衛生法などの各種法令・細則・指針などで定めた義務」を指しています。これを果たしているかどうかが、安全配慮義務の履行/不履行の判断材料となるわけです。

安全配慮義務違反において企業や組織を調べる場合、先ほど解説した2つの軸の『労働環境対策』や『健康管理対策』をしっかり行っていたかが調査されます。そしてこれらの対策が不十分であった場合、安全配慮義務に違反していると判断されるわけです。

「しかるべき義務」の例として、新型コロナウイルスの対策があります。新型コロナウイルス対策は、厚生労働省をはじめさまざまなところから注意喚起がなされています。当然ながら、企業や組織は対策を講じなくてはなりません。

企業や組織が行う新型コロナウイルス対策には、感染防止対策や、感染者・濃厚接触者が出た場合の対処があります。これらの対策や対処は、企業の健全な運営にも大切なことです。対策や対処を怠っていることがわかれば、安全配慮義務違反として損害賠償請求に応じなくてはならないでしょう。

安全配慮義務では、感染力の強い病気の流行など新たに発生する問題への対策も考えなくてはならないわけです。常に従業員の安全や健康に関する情報にアンテナを張り、最新情報を得られるような体制作りもポイントになってくるでしょう。

5-2. 従業員の傷病に安全配慮義務違反が関係しているか

安全配慮義務違反の観点のひとつに、「従業員の傷病に安全配慮義務違反が関係しているか」があります。これは従業員の病気やケガの原因として、企業や組織が関わっているかを判断するものです。

具体的には、長時間労働によるうつ病や、安全配慮が不十分なために起きた事故によるケガなどが該当します。これらの傷病の原因が企業や組織であると証明された場合、安全配慮義務違反による損害賠償請求に応じなくてはなりません。

また、何度か書いてきましたが、『安全配慮義務』では体の安全や健康だけでなく心の健康にも配慮する必要があります。
対策としてストレスチェックカウンセラーによるカウンセリングが含まれているのは、そのためです。

企業や組織の中には、体の健康や安全には注意しても、メンタルヘルス対策までは手が回らないところもあるでしょう。しかし、メンタルヘルス対策が不十分な場合も安全配慮義務違反に該当してしまうことを考えると、しっかり対策する必要があるのです。

5-3. 予見可能性があったかどうか

安全配慮義務における「予見可能性」とは、「企業や組織が従業員の心身の健康を害すると予測できた可能性」のことを指します。つまり、従業員が心身の健康を害するかもしれない事態が予測できた場合に、回避や防止のための対策が行われたかどうかを観点としています。

例えば、高所での作業を行う場合、転落や作業に使用する道具・資材の落下が予見されます。危険を避けるためには、命綱やヘルメットを用意して従業員に着用させなくてはなりません。命綱やヘルメットの用意、さらに着用の指示を怠った場合には、安全配慮義務違反に該当してしまいます。

事故や急な体調の変化は完全には避けられませんが、予測できるものは対策を取る必要があります。企業や組織には従業員に起こりうるケガや病気を可能な限り防ぐ義務があるのです。

6. 安全配慮義務違反の具体的な例

実際にどのようなことが安全配慮義務違反となってしまうのか、いくつか具体例を紹介します。

●無理な労働時間の増加
雇用契約によって定められた労働時間の範囲を超えるような無理な労働時間の増加は、労働条件の違法な変更となります。
例えば過剰な労働時間の延長や適切な休憩時間や休日が確保されていないような労働時間の増加が該当します。
長時間労働によって心身共に疲労が蓄積されることが、労働者の安全や健康に影響を及ぼす可能性があるためです。
上記のような場合には、

●賃金・給与の減少
雇用契約に基づいて合意された賃金・給与を適切な理由なく減少させる変更も労働条件の違法な変更となります。
一方的な理由や無理な理由によって時給や月給を減額することが該当します。

●労働契約の一方的な変更
雇用契約の一方的な変更も労働条件の違法な変更とされる場合があります。
例えば、労働日数や子酔おう形態の変更が正当な理由や説明もなしに行われる場合です。

●労働環境の安全管理の怠慢
労働環境の危険要因を事前に評価せず、適切な対策を講じなかった場合など、
例えば、安全装置・設備の提供がない場合(転倒防止策の欠如)や危険物の不適切な取扱いをしている場合(化学物質の適切な取り扱いの不備)、定期的な点検と保守の怠慢、十分な教育・訓練の不備などが含まれます。

これらの例は安全配慮義務違反となる可能性のある一部の例です。
もちろん記載以外の内容についても企業は労働環境が安全たるものであるよう心掛け取り組む必要があります。
また、企業だけでなく労働者も含めた双方が注意を払い安全な労働環境を確保することが重要です。

7. 安全配慮義務違反を防ぐための取り組み

企業は、労働環境の安全性を確保するために法令・規制の遵守、労働者への安全配慮、責任ある経営など、多くの責任を果たす必要があります。
それでは、具体的に企業が安全配慮義務違反にならないようにするための取り組みについて紹介します。

●労働環境の評価と改善
定期的に労働環境の評価を行い、危険要因を特定します。評価結果をもとに、必要な改善策を立案し実施します。労働環境の改善は、設備の改修、危険物の適切な管理、労働者の意見を反映させることなどを含みます。

●教育・訓練の提供
労働者に対して、業務中の危険や安全対策に関する適切な教育と訓練を提供します。労働者がリスクを正しく認識し、適切な方法で対応することができるようにします。

●リスク管理
労働環境におけるリスクを予想し、予防策や緊急対応策を策定します。安全な作業手順・手法の策定、適切な安全標識の設置、保護具の提供、緊急時の避難計画などが含まれます。

●安全文化の醸成
安全配慮を組織文化の一部にするためには、安全意識の向上を図る必要があります。これには、労働者への参画の促進、安全報告の奨励、フィードバックの実施が含まれます。安全意識が従業員全体に浸透すると、安全配慮が継続的に向上する可能性が高まります。

●監査と改善
定期的な労働環境の監査や安全マネジメントシステムの評価を実施し、問題点を特定します。問題の解決に向けた改善策を立案し、実施します。継続的な改善活動を通じて、安全配慮の効果的な実施を確認し、不適合点を改善する取り組みが重要です。

8. まとめ

安全配慮義務は、企業や組織が自社で働く従業員の安全と健康を守るためのものだということがお分かりいただけたかと思います。

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健康経営優良法人2022の健康経営度調査における、メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組みにも該当します。

※参照:経済産業省「健康経営優良法人の申請について

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