【大学教授監修】社員定着率を高めるための分析方法と、原因別に使える4つの対策

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【大学教授監修】社員定着率を高めるための分析方法と、原因別に使える4つの対策

【大学教授監修】社員定着率を高めるための分析方法と、原因別に使える4つの対策

監修 新井 卓二 先生


山野美容芸術短期大学 教授 
新井研究室 主宰
日本ヘルスケア協会 健康経営推進部会 副部会長
社会的健康戦略研究所 運営委員 特別研究員

企業や組織にとって、従業員に長く定着してもらえる環境を整えていくことは、非常に重要です。
従業員の定着率を高めるには、適切な手段を選ばなくてはなりません。そのためには、従業員が離職する原因や、不満を正確に把握して理解する必要があります。

この記事では、定着率向上のために役立つ知識として、定着率の分析方法や原因および対策などを中心に解説していきます。

1. 「定着率」とは

「定着率」とは

「定着率」とは、企業や組織にどれだけ従業員が定着しているかを指す指標です。
数値が高ければ高いほど従業員の離職が少なく、働きやすい環境であると判断できます。
逆に定着率が低い企業や組織は、離職者が多く働きにくい環境だともいえます。
このことから、定着率という数字は企業や組織がどれだけ健全な運営ができているかを確認する指標としても活用することができます。

定着率を測定するうえでは、年度の初月である4月から計算されることが多いでしょう。数値は年単位で表されることが多いですが、企業や組織ごとの使用目的にあわせて測定されていくのが一般的です。

1-1. よく似た言葉である「離職率」の意味

定着率と同じくらいよく使われる指標として、「離職率」があります。
これは従業員が企業や組織に入社してから、どれくらいの割合で退職したかを示す指標です。つまり、定着率とは逆の事実を示すため、離職率と定着率を合計すると100%になるというわけです。

一般的に、離職率は高ければ高いほど人材が流出しているわけですから、「働きにくい」環境であり、逆に離職率が低い場合には、離職が少ないわけですから、「働きやすい」環境であるといえます。
離職率が高い状態を放置しておくと、企業や組織の運営にとってマイナスになってしまうことは言うまでもありません。
しかし、一概に離職率が0%または0%に近い数字が良い会社だと限らないようです。最近では、IT業界等を中心に一定の離職率があっても、社員の流動率が高く業績が高い会社である可能性にも示されています。

※参考:経済産業研究所 山本 勲,早稲田大学 黒田 祥子「雇用の流動性は企業業績を高めるのか」

1-2. 定着率や離職率には法的な定義がない?

定着率や離職率は、企業や組織の運営における健康状態を知るのに非常に便利な指標です。そのため、さまざまな場所で活用されています。しかし、定着率や離職率には法的な定義はありません。そのため、国の調査などで公開されているデータもありますが、実際の状況と100%完全に一致しているとは言い切れません。

定着率や離職率の分析を行う際には、法的な定義がないためにデータが100%正しいものではないということを念頭に置いておく必要があります。これらの指標はあくまでも“目安”としておき、企業や組織を分析する際には他のデータも収集したうえで行っていくようにしましょう。

2. 定着率向上で得られるメリット

前述した通り定着率は100%正確なものではありませんが「向上させることで得られることが多い」のは確かだといえます。
では続いて、定着率を向上させることにより得られるメリットを4つ、解説していきましょう。

2-1. 人材が流出しにくい組織体制

企業や組織に従業員が定着しやすいということは、優秀な人材が流出しにくい環境ともいえるでしょう。また、人材が流出しにくいということは、個々の従業員の業務習熟度も高くなるといえます。

優秀な人材が多く定着して、業務習熟度が全体的に高いということは、企業や組織の規模・業種にかかわらずスムーズな運営が可能になっていくはずです。

2-2. 余計な採用コストや教育コストが掛からない

従業員がすぐに離職してしまう環境では、人材補充のための採用や、採用後の教育にかかるコストが高くなってしまいます。これらのコストが発生し続ければ、ほかの業務や業績にも悪影響を与えてしまいます。

定着率を高い状態で維持できれば、優秀で業務習熟度の高い人材がすでにいるわけですから、採用や教育に余計なコストをかける必要がありません。余計なコストがかからない分、リソースに余裕ができますので企業や組織の成長に注力することも可能です。このことから、定着率向上は企業や組織の成長に欠かせない要素であるといえるでしょう。

2-3. 業績の向上や従業員のモチベーション向上

定着率が向上して業務習熟度の高い人材が多くなれば、企業や組織の生産性も高まっていき、業績の向上も期待できるようになります。定着率の向上は、生産性の向上業績の向上にも繋がってくるのです。

また、定着率向上により得られる効果は、企業や組織だけでなくそこで働く従業員自身にもよい効果をもたらします。従業員が働きやすい・離職したくないと感じられる職場ということは、働く意欲も高く持てるようになっていきます。モチベーションの高い状態で仕事に臨めるようになれば、集中力も増し、より高い成果を上げることも可能だといえるでしょう。
定着率向上のために取り組みをすることは、企業や組織だけでなく従業員のためにもなるといえるのです。

2-4. 採用力の向上

定着率の高い企業は、従業員による人材紹介である『リファラル採用』が増える傾向にあるようです。

※『リファラル採用』とは、自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手法を指します。

定着率の高い企業の場合、従業員が自社に対して高い帰属意識や高い理解力を持っているケースが往々にしてあります。自身の業務や企業・組織の特性をよく理解したうえで知人などに紹介してくれることになるため、自社にマッチした優秀な人材を確保しやすくなるのです。

自社の従業員が積極的に優秀な人材を紹介してくれるようになれば、採用力の向上にも繋がってきます。つまり、定着率の向上は、「優秀な人材を採用できる機会」を生み出してくれる効果も期待できるのです。

3. 定着率と離職率の計算方法

定着率と離職率の計算方法

定着率向上のメリットを説明してきましたが、続いては実際の計算に移っていきましょう。
定着率の算出には明確な定義はありませんが、以下のような計算式により算出することができます。

【定着率の計算式】
社員定着率(%) = ○年後の定着人数 ÷ ○年前の入社人数 ×100(%)

定着率は3年ごとに計算するのが一般的です。しかし、定着率を求める目的によって期間は多少変化しますので、あくまで年数は目安だと考えておきましょう。

ちなみに、離職率は以下の計算により求められます。

【離職率の計算方法】
100(%) - 定着率

つまり、離職率を求めるには定着率を計算する必要がありますので、その点は注意が必要です。

4. 日本企業の定着率の推移

計算方法を理解したら、次は実際の定着率を分析しましょう。
以下の図は、厚生労働省の「雇用動向調査(平成30年度)」の常用労働者の動きをまとめたものです。

平成30年雇用動向調査結果「平成30年の常用労働者の動き」

※引用:厚生労働省発表平成30年雇用動向調査結果「平成30年の常用労働者の動き」

この図を見ると、平成30年度の1年間における離職率は14.6%で、定着率は85.4%です。
その1年前に当たる平成29年度離職率は14.9%で、定着率は85.1%となっています。

このことから、日本の「定着率」はやや増加傾向にあるものの、1年間で1割程度は離職していることがわかります。
次に、産業別の入職率や離職率を確認しみましょう。

平成30年雇用動向調査結果「産業別入職率・離職率(平成30年)」

※引用:厚生労働省発表平成30年雇用動向調査結果「産業別入職率・離職率(平成30年)」

こちらの図を見ると、宿泊業・飲食サービス業の離職率が一番高いことがわかります。
そのほかの業種では、サービス業が全体的に高めの傾向にあるようです。

以上のことから、日本全体で見たときの離職率と定着率は、「入職と離職の多い業種」の影響も受けていることがわかります。

5. 定着率向上に役立つ調査と自社での分析方法

自社の従業員を定着させるには、「なぜ従業員が離職するのか」を理解したうえで対策をとることが重要です。
適切な対策を取るには、自社の分析を行わなくてはなりません。
この記事では、厚生労働省のデータを用いながら離職理由などの分析方法について解説していきます。

5-1. 離職理由の分析に役立つ厚生労働省の調査結果

定着率を高めるには、「どうして従業員が離職するのか」を理解しなくてはなりません。
まずは市場全体の離職理由を分析してみましょう。

以下の図は前章でご紹介した厚生労働省「雇用動向調査(平成30年度)」から、転職した人たちが前職を辞めた理由をまとめたものです。

平成30年雇用動向調査結果「転職入職者が前職を辞めた理由」

※引用:厚生労働省発表平成30年雇用動向調査結果「転職入職者が前職を辞めた理由」

さまざまな離職理由があるなかで、特に多いのは以下の内容です。

【多くの人が転職を考えた理由】

  • 労働時間や休日取得などの労働条件が悪かった
  • 給料や手当などの収入が少なかった
  • 職場の人間関係が悪かった

一般的な理由ではありますが、これらは定着率向上のための課題といえるでしょう。

5-2. 自社の定着率向上のための分析

自社の従業員定着率を高めるには、市場全体で多い離職理由の把握・改善だけでなく、自社の離職率や離職理由の分析も必要になります。
退職者が出てしまう理由は、企業や組織ごとに異なります。
より的確な対策を取るには、「なぜ自社を辞める従業員がいるのか」を明確にし、その理由にあった対策を行わなくてはなりません。
そして、その分析のためにはデータを集めていく必要があります。

【自社定着率向上対策に必要なデータ】

  • 自社の定着率や離職率の推移
  • 退職者が出てしまった理由

自社の定着率や離職率は、定量的な人事データから収集・計算します。
「退職者が出る理由」などは、実際に退職者にアンケートをとって情報を収集しましょう。

定着率向上のための対策は、データの収集と分析を行ってはじめて効果が出るものです。
対策を講じる際は、必ずデータの収集と分析を行ったうえで取りかかるようにしましょう。

6. 定着率向上に役立つ対策

定着率や離職率の分析が終わったら、対策を行っていきましょう。
離職者が出る原因は企業や組織ごとに異なるため、有効な対策は変わってきますが、以下のような対策が取られることが多いでしょう。

【定着率向上に役立つ対策例】

  • 福利厚生の充実
  • 人事・評価制度の見直し
  • 働き方を含むワークライフバランスの導入
  • 給与や評価制度の見直し
  • 社内コミュニケーションの活発化

続いては、これらの対策について詳しく解説していきましょう。

6-1. 福利厚生の充実

退職者から「待遇」などの面で不満が出ている場合には、福利厚生の充実に力を入れましょう。
具体的には、以下のような方法が有効といえます。

【従業員の定着率向上効果が期待できる福利厚生の一例】

  • 住宅や育児の手当・制度の導入
  • レジャーや健康関連のサービスの導入・充実
  • 休暇に関する新しい制度や旧制度の利用条件の緩和

福利厚生を改善する際のポイントですが、「導入前に従業員の意見を参考にすること」が重要です。
極端な例ですが、子育てをする従業員が多い企業なのに、単身向けのレジャー休暇などを導入してもあまりよい反応は得られません。「レジャー休暇もいいけど、子育てのための休暇や手当のほうが欲しいのに」と感じる人が多いはずです。

従業員が求めている制度を的確に理解するためにも、アンケートなどを活用していくべきです。
福利厚生による定着率向上対策を行う場合は、従業員の満足度に注目しながら対策をしていきましょう。

6-2. 人事・評価制度の見直し

従業員が自身の評価やキャリアアップに対して不満を感じている場合は、人事・評価制度の見直しが効果的です。
その場合、対策として以下のような方法が挙げられます。

【定着率を向上させる見直し対策】

  • 自分で希望の部署を申告・アピールできる制度の導入
  • 社内でのキャリアパスが明確に見える評価制度の導入
  • 従業員に対する評価の透明化
  • 業務に関連のある資格試験の研修・費用などの補助

定着率を向上させるために人事や評価制度の見直しを行う場合のポイントとしては、「従業員に分かりやすい形で評価を確認できるか」という点があります。
人は自分が適切に評価されていると感じると、モチベーションの高い状態で仕事に打ち込めるものです。人事や評価制度の見直しは、業務に対するモチベーションを高めることで定着率を向上させる方法として効果的といえるでしょう。

しかし、企業や組織の業務内容や経営方針のなかには、これらの対策が取りにくいところもあるかもしれません。もし、制度の見直しが難しい場合には、従業員に問題点を聞き、改善できる点がないか調査や会議を行うところから始めていきましょう。

改善が非常に小さい・簡単な内容でも、企業や組織が従業員に寄り添おうとしている姿勢を見せることが大切です。
企業や組織が従業員を大事にしていると示すことも、定着率向上において重要なポイントといえます。

6-3. ワークライフバランス改善策の導入

定着率の向上には、ワークライフバランスの改善策を導入するのも有効です。
「ワークライフバランス」とは、説明するまでもなく仕事と生活の調和を意味する用語です。
近年、さまざまな働き方やライフスタイルが生まれています。その新しい流れに対応するためにも、下記のようなワークライフバランスの改善策を導入することも従業員定着率を高めるのに効果的です。

【ワークライフバランスの改善策】

  • 時短勤務の導入
  • フレックスタイム制の導入
  • 在宅勤務を含むリモートワークの導入
  • ワーケーションの導入
  • 通勤手段の緩和

これらの改善策は、実際に多くの企業や組織ですでに導入されているものばかりです。
従業員から「育児や介護に力を入れたい」「仕事以外の活動に時間を使いたい」などの声がある場合には、ワークライフバランスの改善策で対応できないか考えてみましょう。

6-4. 社内コミュニケーションの活発化

従業員同士のコミュニケーションや社内の雰囲気に対して不満があるといった意見が出た場合には、社内コミュニケーションを活性化させる取り組みが有効でしょう。
具体的には、以下のような方法が挙げられます。

【社内コミュニケーション活性化策】

  • 座席を自由に選べるフリーアドレス制の導入
  • 社内SNSによるコミュニケーション
  • オンライン飲み会やランチ会の補助制度

企業により必要なコミュニケーションは異なりますので、従業員が求めている対策を取っていくことが大切です。

7. まとめ

定着率は、企業や組織で働き続ける人がどれだけいるかを知るのに役立つ指標のひとつであり、高ければ高いほど離職率が低く従業員が定着しているということがお分かりになったかと思います。

従業員に定着してもらうためには、福利厚生の充実や人事・評価制度の見直し、そしてワークライフバランスの導入など、様々な仕組みの改善が効果的であることも説明させていただきました。

ただ、そういった仕組みを整えたとしても、従業員のメンタルヘルス面などで問題を抱えてしまうケースもあるかと思います。そういった従業員へのサポートが重要になってくるのですが、対面での相談には抵抗を感じてしまう従業員の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

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